日本の小説家で誰が好きかと問われたら、真っ先に坂口安吾だと答えます。中でも、夜長姫と耳男、青鬼の褌を洗う女、そして『桜の森の満開の下』を代表作として挙げたい。この『桜の森の満開の下』は、鳥肌が立つほど美しく、感動的な小説です。この作品では終始、夜桜が一つのテーマとなっていて、現代では想像もつかない、夜に咲き乱れる桜の恐ろしさ、それに憑かれた人の様が表現されています。それは狂気と美の対比によって鮮やかに描かれていて、クライマックスに向かって話は盛り上がっていき、最後は残酷にも、悲しく美しい静謐に満たされて終わります。この最高潮の場面、激しい感情と恐怖のあとに訪れる、静寂に包まれた夜桜の散る描写、そのコントラストがとても素晴らしい。以下冒頭部分を少々、『…近頃は桜の花の下といえば人間がより集って酒をのんで喧嘩していますから陽気でにぎやかだと思いこんでいますが、桜の花の下から人間を取り去ると怖ろしい景色になります…』。
安吾

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